東京地方裁判所 昭和42年(ラ)80号 判決 1967年4月08日
抗告人 北沢武三郎
右代理人弁護士 三森淳
相手方 株式会社 大和銀行
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告代理人は「原決定を取り消す。相手方は東京地方裁判所昭和四一年(ワ)第五、〇五〇号損害賠償請求事件につき本決定送達の日より七日以内に、同事件被告西垣恒夫が昭和三七年一二月ごろ相手方銀行を退職するさい相手方に対する債務につき差し入れた始末書、念書その他の書面を提出せよ」との裁判またはその他の相当な裁判を求め、抗告の理由として別紙記載のとおり主張した。
右損害賠償請求事件において、抗告人(原告)が相手方(被告)に対する請求の原因として主張するところは、相手方の被用者である相被告西垣恒夫が抗告人を欺罔し金銭を騙取した行為につき、相手方は故意もしくは過失によりこれに加功して共同不法行為をなしたものであり、または、西垣の行為は相手方の事業の執行につきなされたものであるから使用者である相手方において抗告人にその損害を賠償すべき責任がある、というのである。そして抗告人が相手方から提出を求める文書は、西垣が相手方世田谷支店に勤務中金銭を横領して相手方に与えた損害の賠償等につき約した事項を記載し相手方に交付した始末書、念書その他これに類する文書であり、抗告人は、西垣が相手方に対する右損害賠償の実行のために抗告人に対して西垣の不法行為ないし同人と相手方との共同不法行為がなされ、かつ、相手方が自己の損害回復に急なあまり西垣に対する事業の監督に注意を怠ったものであるから、右文書によって本訴の請求原因事実を立証することができると主張するのであるが、右主張によっても、右文書はもっぱら西垣と相手方との間の法律関係につき作成されたものと解され、右文書に記載された西垣と相手方との間の損害賠償債務の関係は抗告人に対する本件不法行為の縁由をなしこれと事実上の関連を有するにすぎないものと認められるのであって、右文書が本訴請求原因事実の証明に間接に役立つからといって、これを抗告人と相手方との間の法律関係(抗告人主張のように不法行為法上の法律関係を含むとしても)に関する事項の記載のある文書とすることはできない。
すなわち、本件提出命令の申立にかかる文書は、挙証者である抗告人と所持者である相手方との間の法律関係につき作成されたものとは解されず、他に相手方においてその提出義務を負うべき事由は何ら見出しえないから、相手方に対しその提出を命ずることはできず、抗告人の申立を却下した原決定は相当であって、本件抗告は棄却を免れない。<以下省略>。
<以下省略>